相手に好奇心を向けるとは

先日査定させていただいたお客さんはとっても物静かな方だった。60歳ぐらいの男性。ご自宅でお会いしてから駐車場まで歩いて5分ぐらいの間、何を聞いてもほぼ一問一答的な会話。無言になることもたびたび。表情もまったく変えない。マスクをしていて表情もわからない。たまにいるタイプだけど。査定の間は近くでずっと立っていらしたけど、会話は最小限。査定が終わって車検証をダッシュボードに戻そうとしたときに、ハービー・ハンコックのDVDらしきもの背表紙がちょっと見えた。

「ジャズ好きなんですね」と聞いたら「ええまあ。楽器やっているので」「バンドやっているんですね。練習とかどこでしているんですか?ライブとかもやるんですか?」には「一応仕事なんで」と。それを聞いて、ちょっとびっくり。プロのミュージシャンの方だったのだ。楽器はドラムらしい。それからはコロナでこの業界は壊滅した話を聞かせてくれた。こういう方への補助金とかはないよなとも思ったり。そして自分がかつてよくライブに行っていたテナーサックスの人の名前を口にしたら、「あー、何回かやったことありますね」。そのときのエピソードを教えてくれたりもした。もう亡くなってしまっているので、思い出話をしているようだったし、こちらもいい話を聞かせてもらった気分になった。それにしてもちょっと前までの無口ぶりとは激変。立て続けとはいわないけれど、自身からテンポよく話し始めたのだ。できれば接点を最小限にしたい車屋から、自分の職業のことをちょっと知っている人に認識が変わったのだ。

査定ではそんな話をする必要はないし、むしろ嫌がられることもあるので、そこは雰囲気を感じながら話を進めることになるのだけど、人は皆自分に興味を持ってもらえると悪い気はしないものだ。その興味の対象となるものは、車にわんさかあるはず。エンジンをかけたときにかかる音楽とかFM局とか、ゴルフバックとか、ステッカーとか。そういえば、この間引き取らせてもらった車には鹿島アントラーズのステッカーが貼ってあった。阪神タイガースのタオルが後部座席にかかってたこともある。本当に車は生活の一部だと感じさせる。

ちょっとしたこと、些細なことに会話の糸口はあるし、それをメモすることで次の商談にいきたりもする。相手のことに関心を向けるというのはこういうことだ。この仕事をするまでにはまったくなかった習慣。こういう習慣は仕事から離れたらOFFになるわけでもない。プライベートの人間関係でもいかされている。やればやるほど新しい自分を発見できる仕事だ。

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