「この車の相場は450万円です」は、誰が調べても同じなのか?
「この車の相場は450万円ぐらいですね」
車の査定をしていると、こういう言い方をよくします。
お客様も、その数字を一つの基準として受け取ります。
しかし、ここにはあまり知られていないことがあります。
同じ車の相場を調べても、買取店によって見立てが違うことがあるのです。
これは、誰かが間違ったデータを見ているという話ではありません。
同じデータを見ていても、どこに注目するかによって結論が変わるという話です。
相場という数字は、どこから来るのか
中古車買取店が査定額を決める際、重要な参考資料になるのが中古車オークションの落札データです。
例えば、同じ年式、同じグレードの車が、直近のオークションで次のような価格で落札されていたとします。
420万円、435万円、450万円、465万円、480万円。
これは説明のための仮の数字です。
この5台の平均落札価格は450万円です。
では、この車の相場は450万円なのでしょうか。
平均値という意味では、その通りです。
しかし、目の前にある車が450万円で売れるかどうかは、別の話です。
同じデータでも、見方は人によって違う
ある買取店は、450万円という平均値を重視するかもしれません。
別の買取店は、目の前の車に最も条件が近い435万円の車を参考にするかもしれません。
また別の買取店は、480万円で落札された車に注目し、なぜ高く売れたのかを調べるかもしれません。
どの見方にも、それぞれ理由があります。
大切なのは、どの数字を選ぶかだけではありません。
その数字を選んだ理由です。
走行距離が近いからなのか。
装備が似ているからなのか。
開催時期が新しいからなのか。
特定の買い手の需要を想定しているからなのか。
相場データは事実ですが、そのデータから何を読み取るかには、人の判断が入ります。
私は、ここに中古車査定の専門性があると思っています。
相場の見立てと、買取金額は同じではない
もう一つ、知っておいていただきたいことがあります。
それは、相場の見立てと買取金額は別だということです。
仮に2つの買取店が、同じ車について「オークションでは450万円程度で売れそうだ」と判断したとします。
それでも、両社の買取金額が同じになるとは限りません。
オークションへの出品費用、輸送費、販売までの時間、必要な利益、価格変動リスク。
それぞれの会社で条件が違います。
さらに、自社で販売するのか、別の販売先を持っているのかによっても、出せる金額は変わります。
つまり、査定額の違いには少なくとも2つの理由があります。
一つは、相場の見立てそのものが違うこと。
もう一つは、同じ相場を見立てても、買取店ごとの事業条件や判断が違うことです。
この2つは分けて考える必要があります。
「相場はいくらですか?」という質問の難しさ
お客様から「この車の相場はいくらですか?」と聞かれることがあります。
当然の質問です。
しかし、私にとっては簡単に答えられるようで、実は難しい質問でもあります。
なぜなら、相場には幅があり、車両ごとの条件によっても変わるからです。
例えば、私は査定の際に、落札価格の中心だけでなく、高値と安値の理由も確認するようにしています。
高く売れた車には何があったのか。
安く売れた車には何が足りなかったのか。
そして、目の前の車は、そのどちらに近いのか。
さらに、現在の市場が上昇しているのか、安定しているのか、下落しているのかも考えます。
過去の落札価格は、これから売れる価格を保証してくれるわけではありません。
だからこそ、一つの数字だけではなく、その数字の背景を考える必要があります。
相場の見立てには、説明する責任がある
ここまで読むと、相場は人によって違うのだから、結局は何でもありなのかと思われるかもしれません。
もちろん、そんなことはありません。
相場の見立てには、根拠が必要です。
同じデータから異なる結論が出ることはあります。しかし、その違いを説明できなければ、単なる思い込みと区別がつきません。
「この車の相場は450万円ぐらいです」
それだけで終わるのではなく、
「この条件に近い車は430万〜460万円で落札されています。ただし、高値の車にはこの装備があり、安値の車にはこうした違いがあります。今回のお車は、このあたりが参考になると考えています」
そんな説明ができれば、お客様は数字の意味を理解できます。
もちろん、すべての価格変動の理由がわかるわけではありません。
わかっていることと、推測していることを分けて伝えることも大切です。
相場は調べるものではなく、見立てるもの
私は毎日のように中古車の相場を調べています。
以前は、相場を調べること自体が査定の中心だったように思います。
しかし、今は少し違います。
データを集める。
価格の違いや変化を観察する。
その理由を考える。
仮説を立て、別のデータで検証する。
そして、お客様が自分で判断できるように説明する。
ここまでが、今の私の仕事だと考えています。
相場データは、買取店だけが利用できる特別な情報であり続けるとは限りません。AIなどの技術が進めば、誰でも多くの情報を集められるようになるでしょう。
しかし、同じ情報を手に入れられたとしても、そこから同じ結論が出るとは限りません。
だからこそ、何を根拠に、どのように判断したのかが重要になります。
相場は調べるものだと思われています。でも私は、相場はデータをもとに見立てるものだと思っています。
そして、その見立てをお客様の判断材料に変えること。
それが、中古車買取店の大切な仕事の一つだと思っています。
車を売るとき、複数の買取店に査定額を聞くことは珍しくありません。
でも、私はもう一つ聞いてみてほしいことがあります。
「その金額は、どのような相場の見方から出てきたのですか?」
査定額を比較するだけでなく、査定額に至る判断も比較する。
そうすることで、車の売り方は少し変わると思います。













コメントを残す