2026年の中古車市場は「崩れ」ではなく「選別」である

車の査定をしていると、よく聞かれることがあります。
「この車の相場は、今後どうなりますか?」
「もう下がり始めていますか?」
「今すぐ売ったほうがいいですか?」

当然の質問だと思います。
ただ、中古車相場は「上がっている」「下がっている」だけでは説明できません。
同じ車種でも、年式やグレード、装備、状態によって動きが違います。
国内で人気がある車と、海外へ輸出される車でも違います。
さらに、為替、輸入規制、船賃、保険料、港湾状況なども価格に影響します。
だから私は査定の現場で、相場を4つのフェーズに分けて考えています。

「確立」「ズレ」「選別」「崩れ」

この4つです。

1 確立|市場の評価が定まっている

「確立」とは、相場が比較的安定している状態です。
似た条件の取引事例が多く、価格帯もある程度そろっている。
複数の業者が、似たような水準でその車を評価している状態です。
国内で安定した需要がある軽自動車やコンパクトカー、流通量の多い人気車などは、この状態になりやすい傾向があります。
もちろん、価格がまったく動かないわけではありません。
年式が古くなれば下がります。
走行距離が増えれば評価も変わります。
ただ、市場の参加者が、
「この条件なら、だいたいこのあたり」
という共通認識を持っています。
このフェーズでは、極端に売却を急ぐ必要はありません。
相場が急に消える可能性は低く、今後の使用予定や次の車の納期など、自分の事情を優先して判断しやすい状態です。

2 ズレ|市場の評価が変わり始めている

「ズレ」とは、これまでの評価と現在の取引に少しずつ違いが出始めた状態です。
以前まで安定して売れていた価格では、落札されにくくなっている。
同じ車種でも、直近の成約価格にばらつきが出ている。
過去の相場表だけでは、現在の価格を説明しにくくなっている。
こうした変化です。
大切なのは、「買取店によって査定額に差がある」という意味だけではないことです。
ズレとは、今後、市場の評価そのものが変わる可能性がある状態です。
新型車の発表。海外需要の変化。
為替の動き。輸入規制の変更。
船賃や保険料の上昇。特定地域への輸出停滞。
こうした要因によって、これまでの相場と実際の売買にズレが生まれます。
この段階では、「今までこの金額だったから、今回も同じ」とは考えないほうがよいでしょう。
直近の取引を細かく確認し、市場がどちらへ向かっているのかを見る必要があります。

3 選別|売れる車と売れない車が分かれる

2026年の中古車輸出市場を見ていると、現在もっとも強く感じるのが、この「選別」です。
輸出需要そのものがなくなったわけではありません。
むしろ、需要が強い地域もあります。
しかし、どんな車でも同じように買われる市場ではなくなっています。
買える車。運べる車。規制に適合する車。物流コストを吸収できる車。
複数の国へ振り替えられる車。
こうした条件を持つ車が選ばれています。

反対に、一つの国や一つの販売ルートに依存する車は、その出口に問題が起きた瞬間、評価が下がりやすくなります。たとえばUAEは、日本の中古車にとって重要な輸出先です。
ただし、UAEへ送られた日本車が、すべてUAE国内で使われるわけではありません。
ドバイなどを経由して、アフリカや南アジアへ再輸出される車も多くあります。
そのため査定で見るべきなのは、
「UAE向けの車か」だけではありません。
「UAEを経由して、その先の何カ国へ販売できる車なのか」
ということです。

東アフリカでは、ケニアの年式規制が価格に影響します。
2026年は、原則として2019年以降に初度登録された車が輸入対象になります。
同じ型式、同じグレード、同程度の走行距離でも、2018年登録と2019年登録では、輸出先の選択肢が変わる可能性があります。
国内だけを見れば大きな違いがなくても、海外の制度によって評価が分かれるのです。
ロシア向けも同様です。
市場が全面的に弱いというより、排気量、出力、動力方式、輸出規制によって、買える車が絞られています。
条件に適合する車には需要が集中する。
条件から外れる車は、過去のロシア向け相場を基準にできない。
これも選別です。

パキスタンでは中古車の商業輸入制度が変わり、小型車や低燃費車、右ハンドル車に新しい出口が生まれる可能性があります。
ただし、「輸入できること」と「採算が合うこと」は別です。
関税、検査、輸送費を含めて現地で売れる車だけが選ばれます。
つまり今は、輸出市場全体が一斉に崩れているのではありません。

車種単位。年式単位。グレード単位。動力方式単位。
さらに、輸出先単位で選別が進んでいるのです。

4 崩れ|これまでの価格が成立しなくなる

「崩れ」とは、これまで相場を支えていた買い手や出口が弱くなり、従来の価格帯では取引が成立しなくなる状態です。
オークションに出品しても応札が少ない。
売り切り価格を下げても反応がない。
似た条件の車が続けて安く落札される。
流札が増える。
以前の相場を参考にして値付けすると、損失が出る。
こうした状態です。
崩れが起きる原因は一つではありません。

海外の輸入規制。為替の急変。
物流の停止。現地在庫の増加。モデルチェンジ。
国内需要の低下。特定の輸出ルートの消失。
複数の要因が重なり、買い手が一斉に慎重になることで、それまでの価格が成立しなくなります。
この段階では、「いつか戻るかもしれない」と過去の価格に固執するのは危険です。
今の市場で、誰が、何のために、いくらで買うのか。
出口をゼロから確認し直す必要があります。

査定現場で見ているのは、金額だけではない

査定に伺ったとき、私は車の傷やへこみだけを見ているわけではありません。
車両情報を見る。状態を見る。市場需要を見る。その先の出口を見る。
そして、現在の相場が4つのどのフェーズにあるのかを考えます。
確立しているなら、慌てる必要はないかもしれません。
ズレが出ているなら、今後の動きを注意して見る必要があります。
選別に入っているなら、その車が選ばれる側なのかを確認します。
崩れているなら、過去の相場ではなく、現在成立する価格を基準に判断します。
同じ「100万円」という査定額でも、その意味は違います。
安定した市場で成立している100万円なのか。
今後評価が変わる可能性を含んだ100万円なのか。
特定の輸出先だけが支えている100万円なのか。
崩れ始めた市場で、今だから成立している100万円なのか。
金額だけを見ても、そこまでは分かりません。
だからこそ私は、査定額と一緒に、
「なぜ、この価格なのか」「この車には、どんな出口があるのか」
「今後、何が変わる可能性があるのか」「売却を急ぐ必要があるのか」
まで伝えることが大切だと考えています。

すべての車が下がるわけではない

世界では、為替、戦争、規制、物流など、さまざまな変化が起きています。
しかし、一つのニュースを見て、
「輸出相場が崩れる」「中古車は全部下がる」
と判断するのは早すぎます。
今起きているのは、すべての車が一斉に売れなくなることではありません。
市場が、それぞれの車を以前より細かく評価するようになったということです。
国内需要と輸出需要の両方がある車。複数の国に販売できる車。
規制に適合する車。輸送効率がよい車。
現地で部品や整備の基盤がある車。
こうした車は、環境が変わっても比較的強さを保ちます。

反対に、一つの輸出先や一時的な人気だけで高値になっていた車は、慎重に見る必要があります。
相場は、単なる価格の一覧ではありません。
その車を欲しい人、その車を運ぶ人、その車を現地で販売する人たちの判断が積み重なってつくられています。
だから査定で本当に必要なのは、金額を当てることだけではありません。
その車が今、どのフェーズにいるのか。
市場の評価は確立しているのか。変化の兆しがあるのか。選別されているのか。
それとも、これまでの相場が崩れ始めているのか。
その状態を見極め、売る人の事情と重ね合わせること。
それが、後悔しない車売却のための判断基準になると思っています。

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