発信は経費ではない。小さな会社の資産形成である。

以前、あるインフルエンサーが、SNSをやらないことを「やらない罰金」と表現していた。
なかなか面白い言葉だと思った。
SNSで発信しなければ、存在を知ってもらう機会を失う。お客様との接点も生まれない。つまり、何もしていないつもりでも、見えない損失が発生しているということだろう。
確かにそういう側面はあると思う。
ただ、私は最近、少し違う角度から発信について考えている。
発信は経費ではない。小さな会社にとっての資産形成ではないか。
ということだ。

広告費とメディアへの投資は、何が違うのか

事業を営んでいれば、集客のために広告を使うことがある。
広告は重要な経営手段だ。必要なときに、必要な人へ情報を届けることができる。
一方で、広告には基本的に費用を払い続ける必要がある。
広告を止めれば、広告による露出も止まる。
もちろん、広告によって得た顧客や認知は残るので、広告が無駄になるという意味ではない。
ただ、広告費の支出と、記事や動画、ノウハウを自社に蓄積することは、性質が異なる。
私は2019年8月31日から、中古車の買取や売却についてブログを書き続けている。
最初から、メディアを会社の資産にするという明確な戦略があったわけではない。
日々の仕事で感じたこと、市場の変化、お客様とのやり取りを記録してきた。
しかし、続けるうちに、その意味が変わってきた。
過去の記事が新しいお客様に読まれる。
以前考えたことが、現在の査定の判断材料になる。
蓄積した内容を整理することで、新しいサービスや商品が生まれる。
一度の発信が、その日限りで終わらなくなったのである。

発信することで、経営者自身が学び続ける

もう一つ、大きな意味がある。
それは、発信すること自体が、経営者に学びを促すということだ。
例えば中古車買取の現場では、毎日のように新しい発見がある。
同じ車種でも、年式や走行距離によって評価が違う。
人気車だからといって、必ずしも高く売れるわけではない。
海外の需要や為替の変化によって、昨日までの判断が通用しなくなることもある。
こうした出来事を、ただ経験として終わらせることもできる。
しかし、ブログに書こうと思えば、なぜそうなったのかを考えなければならない。
過去のデータを調べる。市場の変化を確認する。自分の見立てが正しかったのかを振り返る。
そして、読者に伝わる言葉に置き換える。
この過程そのものが学習になっている。
アウトプットするから、インプットが増える。
発信は、学んだことを外に出すだけの作業ではない。
学び続けるための仕組みでもあるのだ。

一人の経験を、会社の判断基準に変える

今、私はこの考え方を、会社の組織づくりにも応用したいと考えている。
小規模事業者の強みは、経営者が現場に近いことだと思う。
一方で、弱みもある。
経験や判断が、経営者個人の頭の中にとどまりやすいことだ。
なぜその査定額にしたのか。
なぜその車は売れなかったのか。
なぜそのお客様は、他社より金額が低くても納得して売却してくださったのか。
こうした経験は、記録されなければ、その人だけのものになる。
だからこそ、言語化する必要がある。
現場の経験を記録し、判断の理由を整理し、必要なときに誰もが参照できるようにする。
ブログやSNS、社内の記録、そしてAIも、そのための道具になる。
私が目指しているのは、
昨日、一人が経験したことを、今日、全員の判断基準にする。
そんな組織である。
メディアは集客の手段であると同時に、組織が学ぶためのインフラにもなり得る。

複数のメディアを運営する意味

現在、私はブログに加えて、X、Instagram、Threads、noteなどでも発信している。
さらに、卓球スタジオ「多摩川ベース」でも、新たなメディアの展開を考えている。
こう書くと、ずいぶん忙しそうに見える。
実際、忙しくなってきた(笑)。
しかし、メディアごとにまったく違う仕事をするつもりはない。
中心にあるのは、現場での経験と、そこから生まれる考え方だ。
ブログでは、判断基準を詳しく残す。
Xでは、市場の変化や現場での気づきを伝える。
Instagramでは、複雑な内容を図解する。
Threadsでは、日常や仕事への向き合い方を伝える。
noteでは、積み上げた経験を体系化する。
それぞれの役割を持たせながら、一つの経験を複数の形で届ける。
これは単に投稿を増やすことではない。
自社が持っている知識や経験を、再利用できる資産に変えていく取り組みだと考えている。
もちろん、発信したものがすべて資産になるわけではない。
読まれなければ意味は小さいし、古くなった情報には更新も必要だ。
複数のメディアを運営することで、本業がおろそかになっては本末転倒である。
だからこそ、無理に発信量を増やすより、現場で生まれた素材を無駄なく活用する仕組みが大切になる。

小さな会社こそ、自分たちのメディアを持つ

中古車買取業は、集客が難しい業界だ。
商品を店頭に並べて、お客様に選んでもらう仕事ではない。
多くの場合、お客様が車を売ろうと思った瞬間に、候補として思い出してもらう必要がある。
そのため、広告や一括査定サービスに依存しやすい構造がある。
しかし、資金力のある会社と広告費で競い続けることが、小規模事業者にとって最善とは限らない。
小さな会社には、小さな会社ならではの経験がある。
お客様と直接向き合うからこそ見えることがある。
市場の細かな変化に気づけることもある。
それを言語化して発信する。
続けることで、自分たちの考え方に共感する人が増える。
そして、必要なときに相談してもらえる関係が育つ。
私は、そんな経営基盤をつくりたいと思っている。

発信しない罰金より、発信することで残るもの

「SNSをやらない罰金」という言葉には、確かに説得力がある。
しかし私は、発信しないことで失うものを恐れるよりも、発信することで積み上がるものに目を向けたい。
知識が残る。
経験が残る。
判断基準が残る。
人との関係が残る。
そして、それらが次の事業を育てる土台になる。
発信を単なる宣伝活動として捉えていたら、ここまでは見えてこなかったと思う。
長く続けてきたからこそ、今になって、その価値を実感している。
発信は経費ではない。小さな会社の資産形成である。
これからも、日々の仕事を丁寧に見つめ、考え、言葉にしていきたい。
それが、会社の未来をつくることにつながると信じている。

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